ブッククラブニュース
平成23年11月号新聞一部閲覧 追加分

追悼 長谷川摂子さん

 十月十八日、絵本作家の長谷川摂子さんが67歳で急逝されました。謹んで哀悼の意を表したいと思います。長谷川さんはブッククラブにとってはとても大切な方で、物語絵本の選書についても子どもの発達と遊びの関係についてもたくさんのご教示をいただきました。下に掲げた本は長谷川さんの作の一部ですが、この本が配本の中に入っていない子はひとりもいません。こんな小さな絵本屋のためにも気を配っていただき、ゆめやが主催の講演会でも良いお話を二度もしていただきました。ですからブッククラブにとっては恩人であり、よきアドヴァイザーでもあったのです。
 最初にお会いしたのは、もう二十年以上も前になるでしょうか。長野・岡谷のさとうわきこさんのお宅でした。快活におしゃべりをする方で、話に引き込まれた記憶が懐かしいです。ほんとうは「長谷川先生」とお呼びしてもいい力と頭を持っておられる方ですが、最初に「先生と呼ばないでね!」と言われましたので以後、「長谷川さん」です。ほんとうに謙虚な方で、私ごとき吹けば飛んで行く絵本屋ともきちんと接してくれました。長谷川さんとの交流も思い起こせば、ここには書ききれないくらい、たくさんのことが浮かびます。その感性とお話への情熱は、生まれ育った島根県の風土が影響していること、子どもたちに活力を与える創作を心がけていること、そして現代社会のあり方に対する憂いと批判。勉強になることばかりでした。長谷川摂子さんのお考えを、不肖この長谷川も・・・あと少しだけ絵本屋なりの展開で子どもたちに伝えていきたいと思っています。ご冥福をお祈り申し上げます。

台湾の絵本専門店からのご依頼について

 2010年春にオープンした花栗鼠(シマリス)絵本館という絵本専門店が台湾・台北市にあります。オーナーは林忠正さんという方です。「台湾は子どもたちの本の事情が日本ほどよくないので何とか良い本を手渡していきたい」という思いが結実させた立派なお店です。
 林さんは、そのために2007年から何度もゆめやを訪れ、選書やブッククラブの展開方法についてお尋ねになりましたので、できるかぎりブッククラブや選書のノウハウをお話しました。お店を開かれてから見れば、ゆめやの十数倍の規模、豊富な品揃えで、当店などとは比べ物にならない大きさです。みなさんも台北にご旅行の際はぜひお尋ねください。HPはこちらをクリック
 台湾は近い国といっても外国です。しかも国交がない国です。にもかかわらず林さんは何度も何度もゆめやを訪ねてくださいました。たしかに飛行時間は国内とさほど変わらないですし、小さいころは日本で育った方なので、言葉の不自由はまったくない方ですので、ほんとうに詳しくいろいろな話をすることができました。ひじょうに親日的な方です。一緒に来られた児童文学者の方も・・・・。
 台湾には親日家が多いです。東北の震災の義援金が台湾から100億ですから、並外れた親日国家だと思います。そして、このたび林さんが関って、被災地向けのメッセージが出来上がりました。台湾の台中五美文教基金会会長 頼東明さんと台湾自由時報新聞社が主催した『台湾の父親が日本の父親へ贈る百文字の手紙』、『台中北屯區小学校のこどもたちから日本の被災地の小学校のこどもたちへ贈る百文字の手紙』のコンクールの入賞の文集が出たのです。東北の被災地の方々に励ましのメッセージとして日本語に翻訳をした林さんが小冊子にまとめたものです。そして、「ゆめやさんのブッククラブの東北の会員の皆様宛に、配本時に一緒にお配りくだされば幸いです。」と、いうご依頼がありました。そこで、今月のニュース発送時に東北四県(福島・宮城・岩手・青森)の会員の方に配布いたしますので、会員の方々には、いかに台湾の子どもたち(大人も)が日本の震災を深く考えているか目をお通しくださればありがたいです。

杉山亮さんの「冬のライブ」

 今年の12月10日に新宿・明治安田生命ホールで杉山亮さんの「冬のものがたりライブ」があります。ニュース夏号で「夏のものがたりライブ」(小淵沢で開催)をお知らせしたところ聞きにいった方々が「おもしろい! おもしろい!」という反響がありましたので、今度行なわれる新宿でのライブを、新宿周辺の東京の会員にチラシを送らせていただきます。小学生以上(以下でも)なら楽しめるライブです。ぜひ都合をつけてお出かけください。とにかく、ためになるかどうかは分かりませんが(笑)、嘘と真実の隙間のおもしろさ極まる笑いが楽しめますよ。
 昼の部(12:30開始)と夜の部(16:30開始)があります。チケットの購入方法はチラシにあります。

読み聞かせのポイント
D4歳になると話が深く長くなるので
物語らしくなる絵本の内容

 4歳の配本は、3歳のときに比べてはるかに長く、内容も深まってきます。ここまで来れば読み聞かせも定着していて、親がおどろくほど長い話が聞けるようになっています。近くにいるキャラクター絵本や戦隊もの絵本ばかり見ているお子さんはどうでしょうか。おそらく、この長さ・深さがまったく楽しめません。でも、配本で順を追ってきた子にとっては何でもないと思います。前回述べたように、ふつうに読んであげれば、じゅうぶん物語の展開が楽しめるものになっています。
 また内容も社会性を考慮した深いもの(テーマが高度なもの)に変わってきます。女子に入る「げんきなマドレーヌ」は寄宿学校で暮らす女の子の話ですが、これも仲間との交流を表現した楽しいお話です。男子では逆にルールを無視したい男の子の活力を表現した「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」などが入ります。「スイミー」も「からすのぱんやさん」も周囲と自分の関係です。

反抗期でもあり社会性を身につける時期でもある

 4歳になると子どもの多くは家庭とは違う何かに属しているという意識が芽生えてきます。このため、精神的にプレッシャーを受けて不安定になる子もいれば、すんなりと組織に入り込める子も出てきて、さまざまです。いずれにしても自我が調整できるかできないかです。いわゆる第一反抗期で、自我がどのくらい突出するかしないか・・・こういう時期には周囲との関係を描く物語を多く入れてあります。ですから、あまりこうしなければいけない、ああしなければいけない!という規則ごとではなく、自然に「社会性とはこういうものだ」と示すことが大切です。そのためには物語を活用するのが一番ですね。主人公に共感しながら、世の中との関係がわかっていくこと・・・こういうことが、繰り返して読めば、自然に身についてくるものです。

自我と周囲との関係で葛藤はあったほうがいい

 最近、反抗期がない子どもが多いと聞きます。4歳くらいの反抗は、反抗といってもかわいいもので、ほとんどが口で、です。暴れまわることなどほとんどないです。自我の突出とルールとのかねあい・・・じょじょに慣れていくのですが、中にはルールを意識できないで反抗期を過ぎてしまう子がいます。
 多くは、親が先回りして、やってやったり、代弁したり、・・・これでは社会性は出ません。少なくは放任。自我出しっぱなし。これを注意できる人が少なくなっているので、傍若無人なことをやり、やはりルールが意識できない子が育ちます。そうなると大変・・・学級崩壊の原因はみんなこれです。4歳は重要な時期なんですね。うまく自我の芽生えから出る反抗と付き合い、社会性を身につける・・・。やはり、自我と社会性の葛藤はあったほうがいいのです。あることで、自分が世の中のどの位置にいるかも分かってきます。相手を考える力も生まれてきますからね。 この時期の読み聞かせは、以上のことを頭に入れて読んであげましょう。深く長い話でもきっと何度も読めば子どもの心に響くはずです。

昔話→ファンタジー→古典文学・・・(2)

ほんとうはリアリティがある昔話

 「かちかちやま」も「わらしべ長者」もほんとうは実際にあることを比喩的に表現したものである。幼いころは、こういう語りを聞いたり、本を読んだりするとどこかで「リアルなもの」として感じているが、大人になると、逆に比喩の部分が目立ってきて「リアルなもの」として感じられなくなる。じつは、昔話もファンタジーも古典文学も現実にあることを表現したもので、幼年期から少年期の多感な時期に「リアルなもの」として感じておけば、やがて大人になったときに、現実の危険性を察知する能力が発揮できるようになるわけだ。「おや、これはひょっとして、あの話のなかのことじゃないかな」と思って・・・。
 さらに言えば、昔話、ファンタジー、古典文学の中に登場する人物は、現実にいる人々の類型のようなもので、「あぁ、この人は、あの物語に出てくるあの人と同じタイプだな」と思ったりすることがある。どんなに昔のことでもわけのわからない場所の話でもけっきょくリアルな人間の世界を語っているものだからだ。

たとえば・・・

 「ヘンゼルとグレーテル」・・・ご承知のように、これは継母が兄妹を捨てる話だ。父親は阻止することもできない無力な人。家から追い出されても兄妹は何とか頭を使って戻るが、けっきょく継母のたくらみで家から追い出されてしまう。森の中に行くと魔女がいて、兄妹を拾い、きれいなシーツに寝かせて食べさせてやる(有名なお菓子でできた家)が、こき使うために留めているだけである。三十年くらい前の日本社会では家庭崩壊がなかったので、この話はまさにおとぎ話だったが、現代ではどこかで聞く話でもある。リアリティがあるわけだ。しかし、この話の継母と魔女はじつは一人の母親の両面と考えることもできる。継母は、子どもを自立させるために試練を与えて家から出すという役目を果たしているが、魔女はいつまでもきれいな部屋やお菓子で家に引き止めている母子カプセルを作っている親でもある。だから、真っ当に成長したいヘンゼルとグレーテルは魔女(過保護の母親)を殺してかまどに入れ、お菓子の家を出て大人になるわけである。「赤ずきん」など説明する必要のない単純でリアルな話で、「派手な恰好(かっこう)をして、外を歩けばオオカミに食われるよ」というわけだ。

ところが・・・

 前回述べたように最近は予定調和のハッピーエンドになる昔話だったり、魔法で何でもできる荒唐無稽なファンタジーだったりする。「赤ずきん」はオオカミに食べられずに逆にオオカミが殺されたり、「かちかちやま」ではタヌキがドジな悪者で終わったりして、型にはまった答えだけが用意される。これでは危険を察知する能力が出るどころか、「世の中は、こんな程度だ」という無防備な安心感ばかり生まれてしまうわけだ。たとえば、古典を元にしたディズニーの話は悲劇的な結末でさえ、すべてハッピーエンドになっている。こういう質の低い話や語りは、やはり30年くらい前から増えてきたわけで、やはり、ある程度の年齢になったら原話に近い話を知っておいたほうがいいと思う。少年少女の古典文学はさらに読んでおいたほうがいいわけで、「少公女」にしても「レ・ミゼラブル」や「三銃士」にしても、いずれも現実の人間を描くもので、読めば「世の中は厳しく、信用できない人間は多い」という危険認識も生まれるはずである。つまりは、「正しく怖れる」方法を描いてくれているというわけである。(つづく)

世の中とつながる芸術

 秋の初めに絵本美術館を巡って、秋が深まってから公立の美術館や文学館をめぐった。もちろん、近いところばかり。県立文学館では、「ゆめや」の店名のもととなった深沢七郎(姥捨ての「楢山節考」が有名)展が開かれていて、見ていくと「人口が減れば平和になる」などと大書されている。なかなかおもしろい展示だった。深沢には庶民のリアリティを描き続けた作品が多く、個人的には大好きな作家だ。
 次の休日は、誘われていたので近くの母校の美術展を見に行った。「一高美術館」というイベントで、文化祭の期間中、後者を美術館にしようという試みだ。歩いて行かれる距離・・・秋の散歩は爽やかだ。卒業以来一度もくぐったことのない正門をくぐるとテレビや雑誌で見る高校生とは大違いのマジメそうな生徒が丁寧に案内をしている。五階の展示スペースでブッククラブ会員だった浅川洋さんが出展していた。この作品がとにかく凄い。五階の廊下全体に大きな紙が貼られていて数字が連なる。これは、原発の20km圏内の家庭の電話番号で、展示を見に来た人は、貼り出された電話帳の番号からひとつ番号を選んで書き、その上に自分の電話番号を重ねて書く。そして、テープで作品の上に貼っていく・・・私は会員で放射能汚染から避難している南相馬市の方とおぼしき電話番号を探して、その番号の上に私の電話番号を重ねた。妻は相馬市の会員で家を津波に流された会員の方の電話番号を選んだ。芸術が世の中と離れて久しいが、どこかで世の中とつながっていないと人の目は醒めない。
 こういう芸術家に恵まれると、周辺の高校生たちの作品も鋭くなる。環境問題や社会問題をテーマにした凝ったものがたくさん並び、メディアを騒がす「いまどきの若者」の姿はどこにも見えなかった。「さすが、わが母校!」ではなく、じつは多くの若者はみんなマジメなのだ。世の中とつながっている若者たちも多いのである。メディアが取り上げるAKB48やコンサート会場やスポーツの応援会場でバカ騒ぎをしている連中、さらにはオタクと化した異常事件を起こす若者は、ほんとうは一握りなのだろう。少し安心した。

「ははため配本」について

 現在、「母のための配本」は第十期となっています。新しい選書は十回目ですが、一期から連続的に選書してますので、どこからでも始められますし、どこでも終われます。HAHATAME会員はメール使用が可能です。メールアドレスのわからない方は、ご連絡ください。来店できない方などは、メールで選書リストを添付ファイルでお送りできます。メールのない方はもちろん郵送でお送りいたします。ご連絡ください。
 また、現在、配本に添付する小冊子「HAHATAME」は@〜Eまで出ています。一年分の配本12冊につき二冊小冊子をお送りします。書評に見せかけた実にくだらない?体験記ですが、読みたい方はお知らせください。これは配本が不定期のため、通常別送りしています。請求がないと送りません。配本履歴はこちらでわかっておりますので、そこから見て、所定の巻数をお送りいたします。途切れた方はご連絡ください。



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